5大ウイスキーの一角を占める【アイリッシュ・ウイスキー】ですが、知名度は今ひとつではないでしょうか。
アイリッシュ・パブなどへ出向けば別ですが、それ以外の店舗では3・4種類あれば多い方だと思います。
ウイスキー・ブームと言われていますが、やはり【スコッチ・ウイスキー】や【ジャパニーズ・ウイスキー】それもシングル・モルトが中心ですので、致し方ないところでしょう。
【アイリッシュ・ウイスキー】の輸入量が増え、ブームの兆しが見え始めているとの記事も散見しますが、まだまだ一部のファンの領域を脱していないと感じています。
かねてからアイリッシュ好きな私としては、悲喜こもごもの心境を隠せません。
【バーボン・ウイスキー】と似通った飲み口が感じられる【アイリッシュ・ウイスキー】ですので、これを機会に飲んでみては如何でしょうか。
アイリッシュ・ウイスキーとは
アイルランド共和国(北アイルランドを含む)で生産されるウイスキーの総称です。
熟成期間は3年以上(通常は5~8年熟成)と決められていて、それ以外では、蒸留の方法や原料から4種類に大別されています。
- シングル・ポット・スティル(ピュア・ポット・スティル)
- モルト
- グレーン
- ブレンデッド
詳しい説明は端折りますので、興味のある方は調べてください。
ウイスキーの起源の話では、決まって取り沙汰される【スコッチ・ウイスキー】と【アイリッシュ・ウイスキー】
地理的にも民族的にも近いのでライバル感が根強いですが、製造過程でも若干の違いがあります。
中でも、麦芽を乾燥させる工程には大きな違いがあり【アイリッシュ・ウイスキー】は石炭や木材を使いますが、【スコッチ・ウイスキー】は【ピート】を使います。
【ピート】とは泥炭とも呼ばれ、石炭になる前の燃える泥のようなものです。これを使って麦芽を乾燥する過程で着いた香りが【スモーキー・フレーバー】の正体です。
【スコッチ・ウイスキー】の流れをくむ【ジャパニーズ・ウイスキー】でも【ピート】を使いますが、【バーボン・ウイスキー】を始めとした【アメリカン・ウイスキー】では使いません。
このあたりも【アイリッシュ・ウイスキー】と【アメリカン・ウイスキー】の飲み口が似通っている要因だと思います。
蛇足になりますが、ウイスキーの綴りで言えば、アイリッシュとアメリカン、カナディアンは【Whiskey】と表記しますが、スコッチとジャパニーズは【Whisky】と表記します。
【e】の有無だけなのですが、言われなければ気づかないことなので、酒瓶を見比べながら飲んでみてください。
例外として【メーカーズ・マーク】が【e】の無い表記になっているのは、創業者がスコットランド系だからという説もあります。眉唾ですけど。。。
このように【アイリッシュ・ウイスキー】と【バーボン・ウイスキー】には似通った部分が多くあります。
【バーボン・ウイスキー】は、アイルランド共和国(以下、アイルランド)から移住したケルト民族が造り始めたとの説もあるくらいです。
【アイリッシュ・ウイスキー】は、軽い飲み口のものが多いですので、これからウイスキーを飲みはじめる方には打ってつけの銘柄です。
相方も【アイリッシュ・リッキー】を飲みはじめてから、大のウイスキー好きになりました。
主な蒸留所
一時期は、世界の60%近いシェアを誇っていた【アイリッシュ・ウイスキー】ですので、ピーク時の蒸留所の数は10.000とも15.000とも言われていました。
それが、1980年代には【ブッシュミルズ蒸留所】と【ミドルトン蒸留所】の2か所にまで減ってしまったのです。
その後1987年に【クーリー蒸留所】が誕生し、2000年代に入り【キルベガン蒸留所】が復活して以来、少しづつ数が増え、今では40を超える蒸留所が稼働しています。
ブッシュミルズ蒸留所
世界最古とされている蒸留所です。
1608年に蒸留免許を与えられた記録が残っていて、それが根拠になっていますが、蒸留所として登録されたのは1784年との公式記録が残っています。
いずれにせよ、これだけ古い話なので100年や200年は誤差の範疇でしょう。
【アイリッシュ・ウイスキー】の伝統的な製法でもある、ポット・スティルでの3回蒸留と、ノンピート麦芽を頑なに守って造られています。
画像の右端が【スタンダード】で、モルトを50%使ったブレンデッドです。
軽くてスムーズな飲み口は【アイリッシュ・ウイスキー】のお手本と言えるもので、まずは飲んで欲しい1本です。
真ん中の【ブラック・ブッシュ】は、シェリー樽とバーボン樽で熟成されたモルトを80%以上使ったブレンデッドです。
スタンダードと比べると、シェリー樽熟成からくる果実系の香りと重厚さがあり、違った趣を味わえます。
左端はバーボン樽で10年以上熟成されたシングル・モルトです。
バーボン樽熟成からくるスッキリとした飲み口の中にモルトの甘さが感じられ【アイリッシュ・ウイスキー】のシングル・モルト入門用には最適なおすすめ品です。
この他では、シェリー樽とバーボン樽で熟成後、ワイン樽で後熟成された【シングル・モルト12年】が後日入荷予定です。
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ミドルトン蒸留所
【アイリッシュ・ウイスキー】と言われてもピンとこない方でも【ジェムソン】をご存じの方はいらっしゃると思います。
最大の出荷量でも判るように【アイリッシュ・ウイスキー】のシェア率では70%を超えると言われています。
コンビニやスーパーの酒類売り場には必ずと言っていいほど置かれてありますので、馴染みの深い銘柄でしょう。
左端の【スタンダード】は【アイリッシュ・ウイスキー】の代名詞ともなっているライトでスムーズな口当たりのブレンデッドです。
つまりは、可もなく不可もなくということなので、そこが万人に受けるところだと思います。
真ん中の【ブラック・バレル】もブレンデッドですが、厳選したスモール・バッチのグレーン・ウイスキーが使われているとのことです。
熟成に使用する樽も、シェリー樽とバーボン樽が使われていて、特にバーボン樽に関しては内側を焦がすチャーリングが2度施されてあります。
スムースさを残しつつ、シェリー樽由来の果実香とバーボン樽のナッツ系の香りとスパイシーさのバランスが良く【ジェムソン】を飲むなら【ブレック・バレル】がおすすめです。
もう一方の基幹銘柄でもある【レッドブレスト】は【アイリッシュ・ウイスキー】の伝統的な製法で造られたシングル・ポット・スティル・ウイスキーです。
口に含むと、シェリー樽で熟成された豊かな風味が広がり、余韻も長く続きます。
【アイリッシュ・ウイスキー】の原点とも言われる【シングル・ポット・スティル】を堪能できますが、好みが分かれるかも知れません。
12年より数段福よかな香りの15年も在庫したい所なのですが、残念ながら価格のバランスを踏まえて考慮中です。
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タラモア蒸留所
アイルランドでは【ジェムソン】に次ぐ売る上げを誇る銘柄です。
以前は【ミドルトン蒸留所】で製造されていましたが、2014年からは新生【タラモア蒸留所】で製造されているとのことです。
アイリッシュ・コーヒーが考案された時のウイスキーだとも言われるように、軽い飲み口の中にも僅かな甘みを含んでいます。
当店でも【アイリッシュ・コーヒー】にはコレを使っています。
刺激がなく柔らかいので、初めて【アイリッシュ・ウイスキー】を飲まれる方には【タラモア・デュー】か、もっとライトな【キルベガン】をおすすめすることが多いです。
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クーリー蒸留所
アイルランドで100年ぶりに新設されたウイスキー蒸留所とのことで1989年から本格的に稼働しています。
2014年からビームサントリー社の傘下で稼働しています。
中でも、この【カネマラ】は【アイリッシュ・ウイスキー】の革命児とも呼ばれている製品です。
特徴的なのが【ピート】で乾燥した麦芽を使っているため、他の【アイリッシュ・ウイスキー】には無いスモーキー・フレーバーを感じるところでしょう。
それもアイラ産の【スコッチ・ウイスキー】のような海藻っぽい尖った風味ではなく、土や草木を感じさせる穏やかな風味です。
とは言え、スモーキー・フレーバーが苦手で【アイリッシュ・ウイスキー】を飲まれている方にはおすすめできません。
【クーリー蒸留所】のシングル・モルトには、ノンピートの【ターコネル】があり、間もなく入荷予定です。
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キルベガン蒸留所
【クーリー蒸留所】に所属している【キルベガン蒸留所】の製品です。
画像の【スタンダード】品は、同蒸留所の主力製品ともなっていて、非常にスムースで軽い飲み口のブレンデッドです。
この他にも【シングル・グレーン】や【スモールバッチ・ライ】も製造されているようですが、残念ながら日本では入手困難なようです。
現在は【ビーム・サントリー社】の傘下ですので、いずれは輸入してくれることを期待していますが、私の存命中であることを願うばかりです。
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ランベイ蒸留所
【アイリッシュ・ウイスキー】では珍しいブレンデッド・モルト・ウイスキーです。
ダブリンの沖合に浮かぶランベイ島を個人所有するベアリング家と、コニャックで名高いカミュ社によって造られています。
バーボン樽で熟成したアイリッシュ・モルトをブレンドしコニャック樽で後熟成するとのことで、モルトの味わいに加え、ほんのりとした果実香が感じられます。
『美味しい』と言う表現がピッタリとくる味わいで、アイリッシュ好きな相方の一番のお気に入りです。
43%でボトリングされていますので、飲みなれない方はトワイス・アップで飲まれるのをおすすめしています。
少しだけリーズナブルなスモール・バッチ・ブレンデッドも、後日入荷予定ですのでご期待ください。
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ウォルシュ・ウイスキー蒸留所
1999年に創業された蒸留所ですが【アイリッシュ・ウイスキー】の伝統を守りつつ、革新的なブランドを展開しています。
右側は、伝統的な3回蒸留にこだわり、バーボン樽とシェリー樽で熟成されたシングル・モルトです。
アイリッシュ・モルトの風味と、シェリー樽由来の香りが上品に続きます。
伝統的なシングル・モルトが持つ厚みは感じられませんが、その分上品さが際立ち、それが飲みやすさに繋がっています。
【ブッシュミルズ】のシングル・モルトと飲み比べると、面白いかも知れません。
でも、おすすめしたいのは左側のファウンダーズ・リザーブです。
シングル・モルト70%と、シングル・ポット・スティル30%をブレンドした、100%ポット・スティルという珍しい製法のブレンデッド(?)です。
バーボン樽熟成からくる穏やかなオークの香りと微かな果実香が、絶妙なバランスで長く続き、ちょっと癖になりそうな美味しさです。
今回紹介する【アイリッシュ・ウイスキー】中で、一番のお気に入りです。
同社の新しいブランドである【ライターズ・ティアーズ】も近日入荷予定ですので、お待ちください。
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ティーリング蒸留所
【クーリー蒸留所】の原酒を使った、アイリッシュ初となるボトラースが出発点でしたが、2015年からは自社の蒸留所で製造しています。
エキゾチックで個性的な風味が特徴で、一度飲むと忘れなくなる飲み口が印象的です。
左側にあるのが定番商品でもあるブレンデッドで、モルト3:グレーン1の割合でブレンドしたのち、ニカラグア産のラム樽でフィニッシュしたユニークな製品です。
ラム樽熟成の特徴が感じられる強い甘みと、トロピカルな香りで、一風変わった飲み口のウイスキーですが、ラム好きの方なら気に入っていただけるのではないでしょうか。
右側はノンエイジのシングルモルトです。
こちらは、シェリーを始めとした5種類もの多彩な樽でフィニッシュされたモルトがブレンドされています。
そのせいか、言い方は悪いですが摩訶不思議な風味がして、その余韻がノンエイジとは思えないぐらいの長さで続きます。
でも、それぞれのバランスが絶妙なので、気に入ってしまえば癖になる味わいでしょう。
この他にもシングル・ポット・スティル、ピートの強いブラックピッツや、長期熟成されたヴィンテージ・シングル・モルトなどの多彩なブランドが展開されています。
でも、好みの分かれることが多い【ティーリング】ですので、代表的な2本だけの在庫に留めることにしています。
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飲み方
ウイスキーの飲み方は様々ありますが、自分の好きな飲み方で飲むのが一番美味しく飲めます。
それでも、困ったときのために、私が日頃飲んでいる飲み方を銘柄別に挙げておきますのでご参考にしてください。
- 【ブッシュミルズ】
- 基本的にそのまま【ニート】で飲みます。それぞれに趣が違う3種類の【アイリッシュ・ウイスキー】を楽しめます。
- 【ジェムソン】
- ブラック・バレルはソーダで割ることが多いです。スタンダードはほとんど飲みませんが、ジンジャーエールで割ってライムを絞ると美味しいです。
- 【レッドブレスト】
- その日の気分により【ニート】か【トワイス・アップ】で飲みます。シングル・ポット・スティルの味わいを堪能できます。
- 【タラモア・デュー】
- 基本的にアイリッシュ・コーヒー用ですので、まず飲みません。
- 【カネマラ】
- ほとんど【ニート】ですが、稀にソーダで割ります。やはりピート臭とソーダの相性はいいです。
- 【キルベガン】
- ウイスキーを初めて飲む方におすすめしている銘柄ですが、自分で飲むことは稀です。
- 【ランベイ】
- 【ニート】で飲むことが多いですが、少し加水すると、ブレンデッド・モルトの香りを感じやすくなります。
- 【アイリッシュマン】
- どちらの銘柄も【ニート】一辺倒です。
- 【ティーリング】
- 【ニート】に少し加水して飲むことが多いです。他の銘柄には無い独特の風味が、より一層感じやすくなります。
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付録
【アイリッシュ・ウイスキー】とは直接関係がありませんが、アイルランド共和国(以下、アイルランド)を代表するお祭り【セント・パトリックス・デー】についてです。
アイルランドにキリスト教を広めたとされる【聖パトリック】の命日である3月17日に行われるお祭りで、アイルランドでは祝祭日に指定されています。
2000年を前後して、アメリカを始めとしたキリスト教圏で世界的な広がりを見せて、各地で盛大なパレードが開かれています。
日本でも1992年からパレードが開催されるようになり、年と共に盛大になっています。
アイリッシュ・パブなどの店ではイベントが開かれているようですので、体験された方がいらっしゃるかも知れません。
セント・パトリックス・デーには、欠かせないものがあります。
アイルランドの国花に指定されている【シャムロック】(葉が3枚に分かれている草の総称)と、アイルランドの美しい自然に由来する【緑色】です。
お祭りの期間中は、緑色の物を身に着けることになっていて、町中が緑一色になるそうです。
それ以上に、気になっているのは緑色のビールなのですが、リキュールで色付けすることが多いそうです。
このビールはアメリカが発祥とのことで、アイルランドではギネス・ビールやアイリッシュ・ウイスキーで乾杯するとのことでした。
当店でも、毎年3月17日は、アイリッシュ・ウイスキーをお値打ちに提供して、ささやかにお祝いしたこともありましたが、今年は残念ながら休業中でできませんでした。
随分と先に話になりますが、来年の3月17日は金曜日ですので、何をやろうかと考え中です。
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