無名

沢木耕太郎(著) 2003年 幻冬舎

著者の代表作でもある【深夜特急】と出逢って以来、ノン・フィクションを中心に、著者の作品を数多く読んできた。

著者が対象に向ける距離感が好きだったからだ。

その点からすれば、本作品は異色と感じられる一冊である。

それが、対象が実父であることからきたものなのか、その入院から看取るまでの内容からくるものなのか、いち読者に過ぎない私に計ることはできない。

しかし、実父の好きだった深夜特急の第一巻を贈るくだりを読み返すたび、これは著者の私小説ではないのかという思いに囚われてしまったのも事実である。

とは言え、実父の好きだった俳句を軸に、決して濃密だったとは言えなかった、その関係を振り返りながら、ひとつの生死感を表現している視点は、紛れもない、著者の距離感だった。

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