金子光晴(文) 横山良一(写真・キャプション) 1998年 情報センター出版局
反骨の詩人として名高い金子光春氏が辿った旅路を、写真家でもある横山良一氏が、著作と共になぞった写真集である。
私の好きなアジアが舞台ということもあり、折に触れ開いてきた。
そして、そのたびに頭を過ぎる思いがある。
旅と旅行。
どちらも同じ意味をもつ言葉であるが、両者の間には微妙な違いを感じてしまう。
違いといっても、それは日本語ネイティブの我々にしか理解できない範疇のことだろう。
ただ、おぼろげに浮かんでくるのは【旅行】の楽しみは目的地にあるのに対し、方や【旅】の楽しみはその途中にあるということだ。
人生を【旅に】例えることは多い。
そして、人生の達人と称される方々は、おしなべて【旅】をするが如く人生をおくられているようだ。
それに比べ、多くの人達は人生という名の【旅行】に出かけているように思う。
そこで私自身はどうかと問い掛けてみた。
それは単に目的地が無かっただけなのかもしれないが、まさしく【旅】としか思えない時間を過ごしてきたと思える。
とすれば、私も人生においては達人の仲間に入れてもらえる訳だが、いやはや、何とも心許ない達人ではある。
それでも、こんな私の旅に付き合ってくれる優しい女がいることでもあるし、これから先の残された時間、相方と二人、大いに楽しみながら、旅して行こうと思う。
そんな思いを込めながらページをめくれば、見果てぬ夢と判っていても、若さに任せて歩き回ったアジアの空に、もう一度、近づけるような気がしてくるから不思議である。
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