テルロの決算

沢木耕太郎(著) 1978年 文藝春秋

1960年10月12日。

日比谷公会堂で当時の日本社会党委員長の浅沼稲次郎氏が17歳の右翼少年山口ニ矢に刺殺された事件の記録である。

この事件は、当時の池田内閣に打撃を与えた事件でもあり、ご存知の方がおられるかも知れない。

本書は私が著者を知るきっかけになった作品で、その流れの先に【深夜特急】との出会いがある。

今現在でも著者の作品中のベスト3に入っている著作でもあるし、当時は感激のあまり、友人たちに半強制的に貸し出し顰蹙ひんしゅくをかっていた。

そんな経緯から、その初版本はいつしか行方不明になり、手元にあるのは40代に入ってから古書店でみつけた版を重ねたものだ。

膨大な資料に基づき被害者、加害者、そしてその家族の三つの視点から描かれる事件は、事件当時は8歳だった私のおぼろげな記憶を呼びおこしたばかりではなく、それ以後の読書感にも多大な影響を与えた作品である。

あまりにも愚直なゆえ批判も多かった政治家と、明確で直線的な少年テロリストの人生が交錯した瞬間を、作者は視点を変えることにより解き明かそうとしている。

そして、最終章で明かされる少年テロリストの父親と少年テロリストを取り押さえた刑事との接点を解き明かすことで、静かにこの衝撃的な事件を結んでいる。

テロリズムを善悪の視点からではなく、加害者、被害者、そして、それぞれの家族の視点で書き進めた重みのある一冊である。

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