向田邦子(著) 1978年 文藝春秋
私の愛読書の中に著者の作品は多い。中でも、本書を開いた回数は飛びぬけている。
著者の作品全般に言えることだが、登場する父親のイメージが、私の父親に対するそれと重なるからなのだ。
表題作の【父の詫び状】や【身体髪膚】を読み返すたび、その思いは強くなる。
反発することで父との距離を測ってきた私と違い、著者は家族という距離の中で父親を感じているからこそ、こんなにも優しい香りで家族を描けるのだろう。
それは私にとって、何にもまして羨ましいことだ。
その父が逝って一年半が過ぎた今(2012.7 執筆)、父は父なりに、血の繋がりのない私との距離を測っていたように思えてきた。
その思いは、時間が私にくれた父からの詫び状なのかも知れない。
しかし、それに報いる術は、いまだに思いつかないでいる。
せめて、老いた母との暮らしが、私から父への詫び状になってくれればと願うだけである。
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