レアな角瓶をいただいた。
先ごろ販売された復刻版の角瓶ではなく、正真正銘のオールド・ボトルである。
左がそれで、右の現行の角瓶と比べると違いが判る。
一見すると、心なしかボテっとしている外見としか感じられないが、全体に丸みを帯びていて彫りも深い。
手にした感じも心なしか重いので、やはりガラス瓶の厚み自体が違っているのだろう。
懐かしかったのは、今ではお目にかかれない、このアルミ製のキャップである。
頼りなさげだが、機能的には必要かつ十分な上、開け閉めしたときの感覚は、懐かしさ以上のものがこみ上げてきて、無駄に開け閉めを繰り返してしまった。
控えめでも誇らしげに書かれてある【YAMAZAKI】の文字。
山崎蒸留所が開設されて40年にも満たない時代で、当然、白州蒸留所は、まだ存在していない。
壽屋からサントリーに社名変更したのは昭和38年(1963年)であるから、どんなに少なく見積もっても50年近くは眠っていたボトルである。
底に溜まった澱も少なく、保存状態は良好。
やはり極めつけは【KOTOBUKIYA】である。
これが懐かしく感じられるのは、ウイスキー好きな60代以上の方だけだろう。
それでも、そんな他愛のないことを肴に飲めるのが、酒好きの醍醐味なのである。
となれば、飲まずに飾っておくなど私の性分からすれば言語道断。
さっそく現行品と飲み較べてみた。
頼りないほど簡単に開くキャップを取り、グラスに注いだ時点で違いは明らかだった。香りの濃さが違うのだ。
それはそのまま、味にも反映されていた。
日本のウィスキーに限らず、バーボンでもスコッチでも昔のボトルは味が濃く感じられる。
ウィスキー好きが古いボトル探しに余念がないのは、そのあたりが所以なのだろう。
しかし、ソーダで割ると、現行品の爽やかさが際立って俄然飲みやすくなる。
それに比べ旧製品はコクが邪魔をして喉ごしが悪くなり、良さが半減してしまうのだ。
振り返れば、ウイスキーと言えば水割りかロックで飲まれることが多く、ハイボールで飲むのは稀な時代である。
それが【時流に合わせた味】ということなのだろう。
改めてメーカーさんの努力を垣間見た気がしている。
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近頃はオールド・ボトルの人気があがっているという。
調べてみると【壽屋の角瓶】は1万円前半で取引されていた。
それが、無いものねだりなのか、 回顧の念からなのかは判らないが、私ならば買わない価格である。
その価格なら、他に飲みたい酒がふんだんにあるし、そもそも、私の中での角瓶の位置づけが違うからに他ならない。
角瓶には現行品の価格が似合っている。たとえそれが50年前の角瓶であってもである。
ありがたいことに、今回は懐かしさを味わうことが出来ているのだが、これを飲み干してしまえば、その残り香を肴に、また飲める。
それ以上でも、それ以下でもなく、酒好きとはそんなものだろう。
いずれにせよ、至福の時間を与えてくださったS氏に感謝感謝。
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Aug.2022 追記
残念ながら2022年8月5日にS氏が永眠されました。
最大の感謝と共に、ご冥福をお祈りします。
おっつけ、私も逝きますから待っててください。またいっしょに飲みましょう。
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