吉沢譲治(著) 1997年 NHK出版
サラブレッドは人間によって創りあげられた動物である。
18世紀のなかば、イギリスで改良が始められて以来、サラブレッドの歴史は近親繁殖(インブリード)の歴史といってもよい。
その証拠に、現存するサラブレッドの父系をさかのぼれば【サラブレッドの三大父祖】といわれる3頭に行きついてしまう。
それが、サラブレッド(競馬社会)特有の血統感覚の表れとなっている。
例えば、父親が違っても母親が同じならば兄弟と呼ばれる。人間社会で言えば異父兄弟である。
しかし、父親が同じでも母親が違う、異母兄弟の場合は、兄弟と呼ばれないのがサラブレッドの世界なのだ。
それは、サラブレッドが基本的には母系社会であることと、1頭の繁殖種牡馬(父親)と、相手にする繁殖牝馬(母親)の比率に関係している。
つまり、異母兄弟を兄弟とすれば、殆んどのサラブレッドが兄弟となってしまうからだ。
そして、あまりにも人為的に繰り返された人工繁殖の結果、本書の副題【サラブレッドの進化と限界】にもあるように、1頭のエリートを生みだすために払う犠牲の多さなど、様々な問題をかかえることになる。
そのあたりを含め、血統研究家であり、優駿などの競馬誌に数多く執筆されている著者が、代表的な8頭の繁殖牝馬(母親)を実例にあげながら、わかり易く解説しているのが本書である。
競馬ファンはもとより、緑のターフを疾走するサラブレッドに魅せられた方々には必読の一冊には違いない。
それ以上に、近年、隆盛を極めているペット産業も含め、動物に対する人間のエゴを、あらためて感じさせられた一冊でもある。
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