本川達雄(著) 1992年 中公新書
今のように新書がもてはやされていなかった頃に、静かなベスト・セラーと言われた一冊である。
我々が時間に対して持つ概念は最も基本的なもので、誰もが等しく同じ時間を共有することに何の疑いも持たないだろう。
しかし、これが人間固有の時間であることに気づいている人は少ないのではないだろうか。
私もその一人だったが、本書がそれを、みごとに覆してくれた。
冒頭にある “時間は体重の1/4乗に比例する” という件が、本書の出発点である。
我々の使う時計による時間(これを物理的な時間と定義している)とは別な時間の単位(これは生理的な時間と定義される)があるというのだ。
それによると、体重が増えると生理的な時間は長くなり、その比率が1/4乗なのである。1/4乗とは平方根の平方根、つまり体重が16倍になると時間は2倍になる勘定だ。
この1/4乗という単位が生理的時間に関わるさまざまな現象に広くあてはまる。
例えば、寿命を始め、成熟するまでの時間、胎児が母親の胎内に留まる時間、呼吸の間隔、心拍数、主要栄養素が合成されから壊されるまでの時間などである。
「それがどうした?」と訊かれたなら返答に困る。
しかし、我々は往々にして自分の持つ概念が絶対的なものとする節があるように思う。
100年近い寿命のゾウも、数年しか生きないネズミの一生も、生理的時間の概念で言えば同じ長さの一生である。物理的な寿命が短いとは言っても、一生を生き切った感覚は、ゾウもネズミも変わらないだろう。
という著者の考えに感服させられた。
自身に与えられた生理的時間の単位を大切にし、残された時間を生き切りたいと願う思いが湧いてきたのである。
願わくば最愛の人と一緒に。
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