隣の女

隣の女

向田邦子(著) 昭和56年 文藝春秋

『隣の女』『幸福』『胡桃の部屋』『下駄』『春が来た』の5編が収録された短編集で、著者の作品の中でも特に好きな一冊である。

内職のミシンを踏みながら隣の部屋の会話に耳をすます『サチ子』
ひょんなことから自分の恋人と姉との関係を知ってしまう『素子』
父親の代わりに一家を支え続けてきた『桃子』
父親の隠し子と対面してしまう『浩一郎』
恋人についた嘘がばれてしまう『直子』
それぞれの生き方が時代背景とからめながら描かれている。

初版された昭和56年(1981年)は、79年のイラン革命による第2次オイル・ショックの影響が、まだ残っており、上昇した物価のしわ寄せは、このような目には見えない形で庶民の気持を蝕んでいた。

そんな気持ちを、ご無沙汰気味になってしまった一万円札に準(なぞら)えている。

因みに、当時の一万円札に描かれていたのが聖徳太子。つまりは、その部分を福沢諭吉と読み替えれば今の世になる訳で、そう思いながら彼の札を眺めてみると、妙にシャクにさわってくるから不思議なものだ。

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