墜落の夏

墜落の夏

吉岡 忍(著) 1986年 新潮社

サブタイトルが 『日航123便事故全記録』 となっているように、これは、1985年8月12日、524人を乗せ東京(羽田)から大阪(伊丹)へ向かった日航123便が墜落した事故のルポルタージュである。

後半で展開される社会批判の部分を除けば、噂の域を出ない証言や憶測が省かれた簡潔な内容で、事故を生々しく語ってくれている。

中でも、4名いた生存者のひとりである落合さんの証言には戦慄を覚えてしまう。

この部分を読むだけでも、本書を手にする価値がある。

事故以来、現在に至るまで、事故原因に対する、さまざまな著作が出版されてきた。

その多くは、事故の2年後に提出された事故調査委員会の報告書に見え隠れする大人の事情に起因するところが大きい。

当時は、絵空事のように報じられていた自衛隊絡みの原因説が、今となっては、一段と信憑性を増してきていることは、単に社会情勢が変化したからだとは思えない。

しかし、事故発生から、すでに30年近くの歳月が流れ、事故そのものが風化してしまったようだ。

先日も、三十路半ばの方に事故について尋ねたところ、ご存じなかった。

そこで 『坂本九さんが亡くなった飛行機事故です』と言うと、おぼろげながら覚えておられた。

“喉もと過ぎれば・・・” の喩えではないが、熱気に絆(ほだ)されただけで終わってしまうことは多い。

しかし、忘れ去ってよいことならいざ知らず、決して忘れてはならないことや、それ以上に、語り継いでゆかなくてはいけないことがある。

それを忘れないためにも、時折、手にしなければならない、大切な一冊である。

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