宮部みゆき(著)光文社 1992年
連続殺人事件を題材にした作品である。事件に関しては、ミステリー好きな方なら目新しさが感じられるものではないだろう。
しかし、この作品が傑出しているのは、刑事、探偵、犯人、目撃者などの関係者が持つ財布が語り部となって物語が進んでいく所なのだ。
設定が変わる都度、その語り口も変化するので読み難いとの感想も聞かれたが、私は感じなかったし、逆に、持ち主の性格などを反映させたであろう語り口に読み応えを感じてしまった位である。
先日、某動画配信サイトでドラマ化された作品を観て、少なからず違和感めいたものを感じたので、何十年か振りに原作を再読してみた。
物語の展開は、概ね原作の通りに作られていたが、目撃者の財布として語られる章で登場する刑事の役割が、ドラマでは犯人に置き換えられていた。
当然のように、その後の展開では彼の役割が尻切れトンボのように消えてしまっている。
何よりも、前編を通してやるせなさが残る結末の中で、原作のエピローグで語られる唯一の救いのような関係を無くしてしまっているのである。
事実、この章に登場する財布の持ち主の結末は、ドラマの中では救いが見当たらないのだ。
著者の一連の作品からは、何かしらの救いを感じられる結末が多いと感じているし、そこが好きな部分なので残念である。
単行本化されるにあたり、エピローグが追加されたことを踏まえれば、著者の思いもそこにあるのだろう。ここがあるだけで読後感がずいぶん変わってくる。
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