
上前淳一郎(著)文藝春秋 昭和55年
1954年に発生した台風15号(マリー)による青函連絡船洞爺丸の沈没事故を題材とした作品である。
迫りくる台風と洞爺丸の運命を【第一章 0630時ー1200時】から【第七章 2250時ー2400時】と、時系列で丹念に記してあり、ノンフィクションというよりドキュメントと言える内容だ。
私の好きな水上勉氏の著作【飢餓海峡】の下地となっていることもあり、手にする回数が多い著作でもある。
何よりも、私が北海道で産まれ、この事故の9年後には、青函連絡船で同じ海を渡り名古屋へ越してきた経緯も影響しているのだろう。
そして、この事故を契機に、1923年に発案されて以来、牛歩の如く進展がなかった青函トンネル構想が急速に具体化され、1988年の開通に至ったことは、あまり知られていない。
いずれにせよ、死者・行方不明者あわせて1155人とも言われる日本海難史上最大の惨事を扱った数冊の著作の中では、群を抜いている。
ましてや、幼いとはいえ同じ航路に乗船経験のある私としては、読むたびに身を切られる苦しさを覚えてしまうのだ。
著者の主観などは排除し、淡々と時系列で語られる内容は、私にノンフィクションの在り方を教えてくれた一冊である。
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