人には多かれ少なかれ癖があるものだ。
そして、癖と言えば負の材料として数えられる場合が多い。
その上、自分ではそれと気づかないのが癖であるからして始末が悪いのだ。
それでも、世の中は良くしたもので【蓼食う虫も好き好き】と、ちゃんと逃げ道を用意してくれている。
私がアパレル業界に身を置いていたころ、通い詰めたクラブ(アクセントはクに付けていただきたい)があった。
世間はバブルで浮かれまくっていたころで、その手の店は千万無量の状態だった。
それでも、その店を贔屓にしていたのは、ある魅力的な女性が在店していたからに他ならない。
正直、今となっては、彼女の容姿などまったく思い出せないのだが、薄い記憶をたどれば、私と大差ない年齢だったので、今はとうに還暦は過ぎていると思う。
道ですれ違っても、絶対に判らないだろう。
でも、これをやられたら絶対に見逃さないと確信を持てることがある。
それは、彼女がときおり見せた唇を噛む癖なのだ。
それこそが、私が通い詰めた根源でもある。
癖だろうから、恐らく彼女は気づいていなかったに違いない。
饒舌にしゃべった後などに、しゃべり過ぎたとでも思うのだろうか、決まって唇を噛んで押し黙った。
私はその唇の噛み方にやられてしまった訳である。
【痘痕(あばた)もえくぼ】とは、このことだろう。
だとしても、それ以後、あんなにも魅力的に唇を噛む女性に出逢ったことが無い。
願わくば、いま一度、お目にかかりたいと思わずにはいられないのである。
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