Waltz For Debby

バーのマスターにも密かな楽しみがあるんです。

暇なときにいらした独りで飲まれる方に限定されるのですが、その方に似合いそうなテーマ・ソングを好き勝手に決めて、さりげなく流し、独り悦にいることなのです。

先日もやってしまいました。

開店して間もなく、それまで数回お見かけしたチャーミングな女性が、これまで通り独りでご来店。

飲み物と一品を頼まれて、これもいつも通り静かに読書をされていました。

何を隠そう、これほどまでに印象が残っていたのは、彼女の面影が、私の大好きな一番上の孫に似ていたからなのです。

口開けから数時間は暇な時間帯。

これは絶好のチャンスとばかり、あれやこれやと頭の中で曲を考えはじめました。

そいて、思い浮かんだ曲は【Waltz For Debby】

この曲はビル・エバンスが、幼い姪のデビイに捧げたとして名高い名曲だし、同名のアルバムはモダン・ジャズの名盤紹介には必ず紹介されている一枚でもあります。

早速、レコードに針を落とす。これがCDならばこの曲からはじめられるのだが、レコードではそうはいきません。

一曲目の【My Foolish Heart】が静かにはじまります。

この曲も大好きなので、流れている間に、心を落ち着かせるためにも、お気に入りのネグローニなんぞを作ってみました。

このあたりも、バーのマスターの特権です。

出来上がった赤いカクテルに口をつけたあたりで、お目当ての曲が流れだしました。

耳は流れる曲に、視線は彼女に移しながら、選択の可否を確かめてみます。

Haru
Haru

あくまでもさりげなく、失礼にならないように、最新の注意をはらうのは言うまでもありません。

挙句、我ながらピッタリの選曲などと、独り悦に入りながら、お馴染みさんで立て込んでくるまでのゆったりとした時間を過ごせれば、それはもうバーのマスター冥利に尽きるというものでしょう。

でも、間違っても『わたしのテーマ・ソングは?』などと訊かれたくはありません。

これは、私の秘めたる楽しみでしかないのですから。

それでも、何度か来店いただいた際、いつもと同じ曲が流れはじめ、私がのんびりと一杯やっていたとしたら、それがあなたのテーマ・ソングかも知れません。

Haru
Haru

これはフィクションで、my Styleのお客様とは関係ありません。。。たぶん

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