水上 勉(著) 昭和55年 三蛙房
ほろ酔い気分でちょっと読書。
これは児童文学、つまり童話です。
でも、読み返すたびに感慨を新たにできる内容になっています。
椎の木の天辺まで登った、木登りの上手なトノサマ蛙のブンナが、そこでの生死をかけた体験から悟りを得て、地上へ降りてくるまでの物語です。
酔いが回り始めた頭でも、面白く読めます。
大正時代に起きた児童文学改革である【赤い鳥運動】により、すっかり毒気を抜かれてしまった近代の童話では、決して学ぶことができない内容でしょう。
昔の子供たちは、お伽草子から派生したとも言われる童話を語り聞くことで、道徳だけでは学べない、人智を超えた、宿命ともいえる人生を学んできました。
そして、それらの物語の中には、妬み、裏切り、密告、強欲、時には性の暗示といった人間の裡に潜めた部分を、子供にも判りやすい形に変えて表していたのです。
そうして語られる物語は、当時の子供たちにとって驚きでもあり、大人の世界を垣間見る瞬間でもありました。
つまり、圧倒的に面白かったのです。
本書の中でも、生きていくうえで避けることのできない『命を食べる』ことについて、蛙、雀、鼠などの姿を借りながら、あくまでも冷静な視点から物語が紡がれています。
近頃の童話を読んでいると、子供たちの無垢な感性に訴えるべき童話が、薄汚れてしまった大人の感性で書かれている作品が多いような気がしてしまいます。
残念ながら、綺麗ごとだけでは生きていけない世の中なのですから、それを教えるのが大人の役目なのではないでしょうか。
ちょっと酔いが回ってきたかも。。。
私は著者の作品を多く読んでいるとは言えません。
時流に遅れないようにと読んだ【五番町夕霧楼】【飢餓海峡】【雁の寺】などの著名な作品を除けば、ほんの数冊に過ぎないのですが、そのどれもが心に残る作品ばかりです。
そして、その中でも、異色といえる作品ですが、終生読み続けていきたい一冊なのです。
読んでみたい方は店の書棚にありますので一声かけてください。
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