けむりのゆくえ

早川良一郎(諸) 文化出版局 昭和49年
二十歳を過ぎたころ、偉そうにパイプを嗜(たしな)んでいた時期があった。
何を隠そう、この本を読んだからである。
はたからすれば、さぞかし不釣合いで滑稽に映っていたことだろう。
案の定、そのとき咥えていた唯一のパイプは、一年もせずに、引き出しの中で眠ってしまい、すでに行方不明になっている。
若気の至りとはいえ、穴があったら入りたい思いだ。
それでも、著者がプロローグで書いている ”女房であれば離婚できるが、自分とは離婚できない。どのような自分でも、一生連れ添っていくのが運命” という言葉を糧(かて)に、先が見えてきた残りの人生を精一杯まっとうすることにしている。
著者である早川良一郎氏は、1919年(大正8年)生まれで、72歳で鬼籍に入られた。
執筆活動は15年ほどと短いが、日常生活を題材に、留学経験を活かされた独特のダンディズムが香る文体は読みやすい。
タバコで胃潰瘍になった友人とのやりとりなどは、何度読んでもニンマリとしてしまう。
愛煙家には肩身の狭いご時勢であるが、古希を迎え、歳相応の風体になってきたこともあり、そろそろいい頃合だと思い、ときおりパイプを嗜みはじめている。
店の片づけを終えてからのひととき、のんびりとパイプを燻(くゆ)らせながら、この本を読んでいると、生意気盛りだったころの自分が思い出され、懐かしさと共に、歳をとるのも満更でないと思えてくる。

